音楽医科学研究室での研究に興味のある学生へ
【研究内容の概要】
音楽医科学研究室では,音楽家の高度なスキル(巧みさ)や音楽家特有の疾患(不自由さ),スランプやあがり,ゾーンの背後にある脳の情報処理の仕組みや,最適な熟達支援(練習)法・リハビリ法の開発について,データサイエンスの技術を神経科学や身体運動学,実験心理学などの考え方と組み合わせて,研究しています.
研究室のイメージは,ラボのHPや音楽医科学研究センターのHPから感じていただけると思います.
音楽家や音楽演奏の脳神経科学・生体医工学研究を通して,以下の3つのゴールを目指します.
【教育】音楽家の技能(スキル)の獲得・促進を支援する
【医療】音楽家の故障問題を予防・解決する
【学術】過剰訓練と可塑性(脳のやわらかさ)の相互作用のメカニズムを理解する
実験環境として,以下の装置を使用します.
動作解析や生体計測(データグローブや筋電図,力・加速度センサー,心電図など)
生体を傷つけない安全な脳刺激装置(経頭蓋直流・交流電気刺激,経頭蓋磁気刺激)
ヒューマンインターフェース(可変聴覚フィードバックシステム,ハプティック(力覚)インターフェース)
研究室で身に付けられる主なスキルは,以下のものです.
データサイエンス(基本統計,多変量解析,機械学習・データマイニング)
信号処理(デジタルフィルタ,ウェーブレット)や信号計測(センサー開発などのハードウェア開発)
ロボット工学による力学モデルや数理モデル(制御工学やニューラルネットワーク)
ハードウェアの制御(LabViewやSimulinkによるインターフェース制御,Arduinoなど)
プログラミング(MATLAB, R, Python, LabViewなど)
英語(読み書き,会話)→希望者は,卒論を英語で執筆や,英語での打ち合わせ等可能
脳神経の働きや身体運動についての最先端の知識
これらの技術を駆使して,生体情報の多次元データを計測・解析し,統計処理を行うことで,データの特徴抽出,分類,可視化などを行います.データサイエンスの知識や経験,スキルの習得を目指します.
他の研究室と比較した際,特色は以下になります.
データを計測する: データ解析は人工知能,機械学習の発展に比例して,注目を集めており,社会的なニーズも高まっています.しかし,料理に例えると,データ解析は「食材の料理」であり,データ収録・計測は「食材の調達」に相当します.良い食材を調達する方法を学び,それを料理し,最後に世に出す=お客様に出すまで,全てやることを,本研究室では行います.それにより,データを操る際に,食材の特徴を考慮に入れた柔軟かつ創造性のある解析が可能になると考えています.
論文を書く: 「Publish or Perish」という言葉がありますが,学術論文を修士2年までに必ず国際誌に掲載します.将来,研究者にならなかったとしても,皆さんがやった仕事が,未来永劫,世界中の人に知ってもらえることは,価値のあることだと考えています.
人の笑顔に繋げる:研究することは,知的好奇心という根源的な欲求を満たしたり,社会の幸福に寄与することにつながるなど,人の笑顔を生み出すことにつながります.自分が手を動かしたことが,誰かの笑顔を生み出す体験をすることは,将来ビジネスの現場でも「誰を向いて仕事をするか」を常に意識したQOLの高い仕事を行う上で意義あることと考えています.
もしデータ計測・解析が得意で無くても,脳・生体情報に関する様々なスキルを獲得できるよう,幅広い研究テーマを用意しています.例えば,「手指を動かすメカニズムを調べる」といっても,手指の力学モデルを立てたり,動作分析をしたり,脳機能を評価したり,疾患による運動異常を調べたり,実験心理学的に騙してその反応を見たり,手指を動かす脳部位を電気や磁気で刺激したりと,様々なアプローチがあります.もし解析が苦手で実験が好きな人には,実験にウェイトを置いたプロジェクトを考案します.個人の長所と興味を活かしたテーマ設定を行います.
音楽演奏の研究で世界をリードし続ける研究を目指しています.やる気と好奇心があるメンバーを募集しています.
現在,研究を行っている/計画しているプロジェクトの例は,以下のものです.(一例です)
【運動学習】様々な練習法を考案・比較し,最も速く・正確に・力まずに演奏するための最適な練習法を同定する
【動作分析】手指の動きをデータグローブで計測したり,筋肉の働きを筋電図センサで計測し,上手さ・下手さを決定付ける生体情報処理の仕組みの解明や,疾患に関わる生体情報の同定を行う
【神経リハビリテーション】練習のし過ぎで起こる音楽家の脳神経疾患に対する新しい神経リハビリテーションを開発し,その効果を脳神経科学的に評価する.
【実験心理】心理実験を通して,楽器の持つ物理特性が脳の中でどのように表現されているか(“内部モデル”),それが訓練や脳神経疾患によってどのように変化するか,明らかにする.
【操作脳科学】微弱な電流を頭皮から流すことで,脳の特定の情報を操作することで,巧みな動きを生み出す脳情報処理の仕組みを解明する(tDCSやtACSを使用)
【脳機能解明】生体を傷つけない磁気刺激(TMS)を用いて,安静時や楽器演奏中の脳の働きを明らかにする
【ヒューマンエラー】うまくいく時といかない時(例えばミスの有無やアガリ)の動きの“質”の違いを定量的に明らかにし,エラーが起きる原因を同定する.
【ヒューマンインターフェース】各種インターフェースを使って,動きの上手さを評価したり,技能熟達を支援する(センサーやプログラムの開発など)
【定量診断】疾患を診断するシステムを機械学習やニューラルネットワークを用いて開発する.
【大学院(博士前期課程)について】
学内外の様々な経済支援を受けることができます(TA・RA,各種奨学金,上智大学理工学振興会奨学金,JSPS特別研究員など).一定期間,海外の研究室に滞在して研究することをサポートする体制もあります(ドイツ:ハノーファー音楽演劇大学やドルトムント・ライプニッツ研究所,イギリス:ロンドン大学ゴールドスミス校,アメリカ:アリゾナ州立大学,カナダ:マギル大学など).
学内の他学部や,他大学からの入学希望も歓迎します.まずはメールでご連絡ください.
プログラミングは,MATLABを使用することが主ですが,PythonやC,JAVAも歓迎します.統計ではRを使用します.
これまでの主な指導学生の実績例です.(B:学部,M:修士課程,D:博士課程)
Christos Ioannou(D1~D3):国際学術誌論文2本
Floris van Vugt(D2~D3):国際学術誌論文1本
Marieke van der Steen(D3):国際学術誌論文1本
Matthias Klaus (B3~):国際学術誌論文1本(継続中)
Kenta Tominaga(M1~D3):国際学術誌論文6本
Ayumi Nakamura(B4~M2):国際学術誌論文4本,国内学術誌論文2本
Tatsushi Goda(B4~M2):国際学術誌論文1本,国内学術誌論文2本
Shingo Hattahara(M2のみ): 国内学術誌論文1本
【大学院(博士後期課程)について】
本研究室にて博士号を取得する学生を募集しています.まずはメールにてご連絡ください.
本研究室は理工学部に所属していますが,学部での専門は,必ずしも工学である必要はありません.心理学,医学,生物学,教育学,理学療法・作業療法,スポーツ科学などを専攻した学生も歓迎します.
修士2年生の時点で,JSPS特別研究員に応募することを推奨しています(強制ではありません).このプログラムに採択されると,毎月20万円の給付を3年間受給できます(返還ナシ).また,本学では,学内外の様々な経済支援を受けることもできます(TAやRA,各種奨学金,上智大学理工学振興会奨学金など).
博士課程に進むと企業に就職できないということはありません.むしろ,企業では博士号取得者を求める傾向が年々強くなっています.指導学生の中には,博士号取得後,大手企業に就職した人もいます.
【アクセス】
研究室の場所は,市ヶ谷キャンパスの本館2階の208A号室です.JR市ヶ谷駅の改札を出て右手(ユニクロ側)にある急な坂を上り切り,GEMS市谷の交差点を斜め左(ナチュラルローソンの方)の方向に真っ直ぐ進むと,左手にドトールとNo4というベーカリーカフェがあります(道路を挟んで右手にはフレッシュネスバーガーやガソリンスタンド).その交差点を左に曲がると,郵便局を超えてすぐ左手側に門があります.地図 市ヶ谷駅からは,徒歩5分程度です.
四ツ谷キャンパス,JR四ッ谷駅や地下鉄・麹町駅へは,全て徒歩5分~10分程度です.
連絡先:sfuruya_at_sophia.ac.jp ("_at_"を"@"に変えてください)
【参考文献】
<日本語>ピアニストの脳を科学する(古屋晋一:著),脳と運動のふしぎな関係(野崎大地:著),脳の計算理論(川人光男:著),アクション(丹治順:著),イラストレクチャー認知神経科学(村上郁也:著),神経科学の最前線とリハビリテーション(里宇明元・牛場潤一:著),カンデル神経科学 (エリック・カンデル:著)
<英語>The Oxford Handbook of Music Psychology (2nd edition) 2016年(古屋分担執筆)
<論文>音楽演奏と脳についての総説論文(2015年の総説/2012年の総説)→PDFファイルが開きます
<記事>新潮45(2014年8月号)ビートたけしさんとの対談記事