より速く打鍵するための身体運動技能

ピアノを弾く方であれば、一度は「もっと速く弾けるようになりたい」と望んだことがあるのでは無いでしょうか。しかし、ピアニストの中でも、最速度で演奏する際の打鍵速度は、個々人によって異なります。では、速く演奏できる人とそうでない人では、何が違うのでしょうか?その背景にある生理学的要因や身体運動技能(スキル)の仕組みを明らかにすることが、本プロジェクトの目指すゴールです。

はじめに、ピアニスト10名(プロ5名、アマチュア5名)に、親指と小指で2つの異なる鍵盤を交互に打鍵してもらい(トレモロ)、その際の手指と肘の詳細な動きを、モーションキャプチャと呼ばれる高速度カメラ13台から成るシステムを用いて計測しました。
さらに、手指を動かす筋肉の電気活動を、表面筋電図という装置を用いて計測しました。得られたデータを元に、手のフォームや指の関節が回転する速度、筋肉の収縮度などを計算し、「どんな身体の使い方をする人が、より素早く打鍵できるか」について、相関解析を用いて統計的に調べました。

その結果、より速く鍵盤を打鍵できる(=より速く演奏できる)人ほど、肘関節が回転する速度が速く、鍵盤から指先を持ち上げ始めるタイミング(=離鍵のタイミング)が早いことがわかりました。一方、手指の筋肉の硬さや、手指の関節の回転速度と、最速打鍵テンポとの間には、相関が認められませんでした。これらの結果は、より速く打鍵するためには、指だけでなく、腕全体の使い方が
大切であることを物語っています。

現在、親指と小指で2つの鍵盤を同時に連続して打鍵する際や(=和音やオクターブの連打)、実際の楽曲を演奏する際の,個々人の最速打鍵速度と、身体の使い方や神経系の機能、運動能力などとの関係性について、ロボティクスや機械学習、多変量解析といった手法を組み合わせて詳細に調べる研究を実施しており、その成果をまとめております。得られた成果は、(1)演奏者の「もっと速く」を実現するための奏法や指導法の開発、(2)ヒトの卓越した運動能力の背景にある脳神経系の仕組みの解明、(3)ヒトらしい巧みな動きを創り出すCGの生成技術の開発に貢献します。

主な参考文献
Furuya S, Soechting J (2012) Speed invariance of independent control of finger movements in pianists. Journal of Neurophysiology
Furuya S, Goda T, Katayose H, Miwa H, Nagata N (2011) Distinct interjoint coordination of fast alternate keystrokes in pianists with superior skill. Frontiers in Human Neuroscience