手指を巧みに動かすピアニストの秘密を解き明かす

ピアノを弾く手指の動きは、一見とても複雑であり多彩です。それは、様々な表現を正確に生み出すために、必要なスキルです。一方、そのために脳には過剰な負荷がかかり、時にフォーカル・ジストニアという難治性の脳神経疾患を引き起こしてしまうことすらあります。このような問題を解決するには、まずは、ピアノ演奏で用いられる手指の使い方とその背後にある制御の仕組みについて、正しく理解する必要があります。しかし、それらを精緻に調べた研究は、これまで行われてきませんでした。

私は、ミネソタ大学のSoechting教授、Flanders教授、Winges博士らと共に、ピアノ演奏時に手指の多数の筋肉や関節が、互いにどう協調しあっているかについて、様々な計測・解析手法を駆使して調べています。初めに、手指にあるたくさんの関節の動きをデータ・グローブという装置を用いて高速度で計測し、そのパターンを明らかにするための解析手法を確立しました(主成分分析とEMアルゴリズム)。その結果、親指で打鍵するときには、他の指同士は協調しあっており、一方で、他の4本の指のいずれかで打鍵するときには、残りの指は互いに独立に動いていることがわかりました。これは、物を掴んだり、コンピュータのキーボードを叩いたりするときの手指の動きとは、全く違う特徴でした。さらに、通常は、中指と薬指が特につられて動いてしまうのですが、ピアニストは、全ての指を同じ程度独立に動かせることがわかりました。

現在、この手指の巧緻な動きを生み出す筋肉の働きを明らかにするために、手や前腕の複数の筋肉に超小型の電極を付け、筋電図を用いて演奏時の筋活動を調べる研究や、プロとアマチュアのピアニストの手指の動きや筋肉の働きの違いについて調べた研究を実施しており、得られた成果を学術論文にまとめています。さらに、ピアノを弾く上で不可欠となる「指の独立運動機能」を高める新しい学習方法の開発を目指した研究も実施しております。得られた成果は、効果的なピアノ指導法の開発や、手指に負担の少ないピアノ奏法の開発の一助となることが期待されると共に、巧緻な手指動作を生み出す脳神経メカニズムを解明する上で有意義な情報
提供します。

主な参考文献
Furuya S, Flanders M, Soechting J (2011) Hand kinematics of piano playing. Journal of Neurophysiology
Furuya S, Soechting J (2012) Speed invariance of independent control of finger movements in pianists. Journal of Neurophysiology
Furuya S, Nitsche MA, Paulus W, Altenmuller E (2013) Early optimization in finger dexterity of skilled pianists: implication of transcrnial stimulation. BMC Neuroscience